トラベル懇話会 Travel Management Club
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例会抄録
2011年―夏期セミナー講演・抄録―
 
世界のパラダイムと日本
 
磯村尚徳氏
外交評論家
 
日本の旅行業界はいま、東日本大震災による需要の冷え込みからの脱却を目指している。
そのためには、世界的なパラダイム変化を踏まえた策が必要である。
磯村尚徳氏はトラベル懇話会夏期セミナーでそう強調した。
われわれが認識すべきパラダイム変化とは。
 
パラダイムに関する日本不信
福島原発の事故後の日本に対する不安や悪評は深刻です。観光庁長官が各国を訪れて安全をアピールすれば払拭できるといった生易しいものではありません。海外の人々が抱く不安は、パラダイムに関する日本不信に原因があるからです。ちなみにパラダイムとは「ある時代のある国、もしくは世界全体、社会全体において支配的なものの見方、考え方」のことで、このパラダイムをめぐって、いま海外では日本不信が高まっています。日本政府や日本のメディアは、福島原発の問題の深刻さが本当にわかっているのだろうかという不信感が広がっているのです。

 日本では原子力発電、原子力の平和利用といった表現をしますが、他国では核発電と表現し、原子力発電は「小さな原爆」であると認識されています。つまり核兵器の開発・管理と核エネルギーの平和利用は表裏一体と見ているのです。日本は世界で3 番目に多い52 基の原発を持っている。日本国内にストックされているプルトニウムを利用すれば、日本は数週間単位の短期間に数千発の核爆弾を持ちうるとの分析もあります。つまり海外からは、日本は核大国と見られているわけです。その認識と発想が日本の政治家には乏しすぎます。核や原子力の管理は、まさに国家の存亡をかけた真剣勝負なのです。
いそむら・ひさのり●1929年生まれ。 学習院大学卒業後、53年NHK入局。インドシナ、中東、パリ特派員を経て65年ワシントン支局長。74年から「ニューセンター9時」のキャスターを務め、”ミスターNHK”と呼ばれる。その後、欧州総局長、報道局長、専務理事待遇特別主幹を歴任し91年にNHK退社。95年から05年までパリ日本文化会館初代館長を努める。
だから原子力発電所の管理を、民間会社に任せている日本に不信感を持ちます。福島原発は過去にも何度か大事故を起こしていますが、いずれも隠蔽しました。東電は株価の下落を恐れたのです。国民の生命、財産にかかわる原子力発電所を、民間企業に任せるのは無責任と言われても仕方ありません。
フクシマを機に国や政府が9 つの電力会社を統合し国有化する。それが海外の不安を払拭するために、最初にすべきことでしょう。
 
インバウンド復活のために
インバウンドを活性化するには海外の人々に日本のことを伝えなければなりません。そのためには相手を知る必要がありますが、日本は反省すべき点が
あります。パリにいた際にVJC のイベントがあったので私も現場に居合わせましたが、内容はフランス人が最も嫌うアメリカ的な演出によるものでした。ヨーロッパで一番用いてはならないのは、アメリカ的発想に基づいたアピール手法です。
 海外において日本政府、東電の評価は最悪です。しかし大震災後の日本人の姿や振る舞いが評価され、いま日本人に対する評価は極めて高いものがあります。韓国で読んだ英字紙には「韓国人は日本を尊敬する」と題した記事が掲載されていましたし、ヨーロッパの各紙もみな日本人を絶賛しています。日本人の素晴らしさが、これだけ世界的に広まっているとき、日本を宣伝するにはいい時期ともいえます。
 日本のPR は日本人がやるより、海外の親日派、知日派に頼んだほうが効果は大きいと思います。毎年パリでジャパン・エクスポが開催され、日本のアニメやマンガ、TV ゲーム、武道など日本に関するあらゆるものが一堂に集まります。今ではイベントに10 万人単位の人々が来場しますが、最初は400 人ほどの日本好きのフランス人が手弁当で集まって立ち上げたものです。かつて浮世絵が巻き起こしたジャポニズムとの最大の違いは、かつてのジャポニズムを指示していたのがインテリ層だったのに対し、現在は一般大衆が指示している点です。ジャパン・エクスポの来場者も、多くが10代で、女性が65%を占めています。こうした数多くの日本ファンに、さらに日本のことを好きになってもらう。魅力を広めてもらう。そのために彼らの何人かを日本に招待する。そんな取り組みも有効だと思います。
 
リーマンショックの後の世界
日本では震災もあり、あまり大きく報じられていませんが、いま中東で起きている「アラブの春」現象は世界史的な大事件です。アラブ地域では過去50年間に、エジプトで王政が打倒されたナセル革命、イスラム革命としてのイランのホメイニ革命など複数の革命がありましたが、「アラブの春」は過去の革命と3つの点で根本的に異なります。第1に民衆が目覚めたイスラム文化圏の人々になると予想されています。日本人の海外旅行市場を考えるうえでは、こうした状況も勘案して企画を作るべきです。 世界では今パワーシフトとパラダイムシフトの両方が起きています。第1回サミットが開催された75年には参加5カ国の合計GDPは世界全体の75%を占以前の「マーケットは万能。規制は撤廃。人間は平等ではなく、欲深いことはいいこと」という考え方から、リーマンショック後は欲深さを抑制し規制を強化する考え方へ変わりつつあります。こうした認識も持ったうえで、海外旅行についても考えていく姿勢が重要です。