トラベル懇話会 Travel Management Club
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例会抄録
2013年 新春講演会
 
日本再建ビジョンとは何か
―フクシマ後の戦略課題―
 
船橋 洋氏
日本再建イニシアティブ理事長
 
東日本大震災後に、日本再建のためのシンクタンクとして設立された財団法人日本再建イニシアティブ。同財団の発起人であり、朝日新聞社には北京特派員やアメリカ総局長を務め、米中両大国に詳しい国際ジャーナリストでもある船橋洋一氏が今回のゲスト講師を務めた。日本再建のために、今後の世界がどのように動くかを冷静に分析し、国益とは何かを見極めたうえで、中長期的な戦略を立てなくてはならないと説く。
 
変わりゆく世界
失われた20年の末に東日本大震災を経験した日本は、結局のところ再建せざるを得ない地点に来ています。しかしその再建のためのビジョンはどうあるべきなのか。本日はその点をお話したいと思います。 再建のためにまず我々が行うべきことは、世界が激動するなかで日本の国益を再定義することです。これからどういう日本を作っていくのか。どのような姿の日本を目指すのか。この点を明確にする。そのうえで中長期的な戦略を立てる必要があります。それを考えていくために、将来の世界がどのように変化していくかを考えてみましょう。
 エコノミスト誌がまとめた『2050年の世界』とアメリカの情報機関が発表した『グローバル・トレンド2030』は、いずれも未来を見通すうえで参考になる分析ですが、両書が共通して指摘しているポイントがいくつかあります。 第一に人口動態です。現在すでに10億人もの人口を抱えるアフリカ大陸では人口爆発が起き、人口ボーナスを受けてナイジェリアやタンザニアの発展が加速。アジアではインドネシアが同様にボーナス効果を得るとみられます。一方、人口減少が顕著になるのは日本や韓国、イタリア、ドイツ、スペインです。中国も2015年からは生産年齢人口が減り始めます。高成長モデルが終わりを告げ、高齢化によってGDPは上がっても生産性が上がらない状態に陥り、2050年代の成長率は2.5%まで低下します。
ふなばし・よういち●1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒。68年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、米国際経済研究所(IIE)客員研究員、アメリカ総局長、コラムニストを経て朝日新聞社主筆。執筆でボーン上田賞、石橋湛山賞、日本記者クラブ賞を受賞。11年9月からは日本再建イニシアティブ財団理事長も務める。
第二がシュンペーターの理論が現実化するという指摘です。インターネットの普及がもたらしたグローバリゼーションが、シュンペーターの言う創造的破壊のスピードを速めています。この20年間の技術革新はすさまじいものがあり、技術革新についていけない企業は淘汰され、新しい企業が生まれます。そうした変革の中にあっても中長期的に見てアメリカほど潜在力のある国は他にありません。先進国のG8がいずれも人口減少に転じるのに対し、アメリカは人口の増加が期待できること、インターネットやIT関連分野で重要な技術革新を生み出す力がある点が日本との違いで、これらの分野で出遅れ、自分のものにできなかったのが日本の課題でもありました。日本は英語についても考えていかねばなりません。現実問題として英語はグローバルスタンダードとなっており、今後は楽天やユニクロならずとも英語を公用語とせざるを得なくなる企業が増えるでしょう。 

第三がパワーの分散です。米ソの2超大国の時代が終わり多極化が進行しています。アジア太平洋地域では南アジアを中心に中国経済圏ができ、中国依存が強まるでしょう。またBRICsに南アフリカを加えたBRICSが台頭し、さらには韓国、インドネシア、メキシコなどを含むネクストイレブンが躍進。従来の“持てる国”の力は相対的に弱まるでしょう。一方で国内格差は拡大します。所得格差の指標、ジニ係数は値が1に近いほど格差が大きいのですが、中国は2000年に0.41でしたが、その後は発表しなくなりました。2010年には0.61に達しているとの指摘もあり、南アフリカも0.64です。1人当たりGDPが1万5000ドルを超えると民主化が始まり、ジニ係数が0.6を超えると革命が起きるといわれています。中国はすでにボイリングポイントに差しかかっていますが、世界全体を見ても格差リスクは高まっています。
 
ジャパン・プレミアムは何か
さて、このように変化していく世界の中で、日本は何をパワーとして未来に向かっていくべきか。忘れてならない点は、日本がいまでも世界で最も他国から好かれている国である点です。印象度調査を行うと、カナダと日本が上位の常連です。この好印象がどこからきているのか、徹底的に分析すべきです。また戦後日本の平和国家としての歩みを軽々しく批判したり、駄目だったなどと捉えたりするべきではないでしょう。

世界的に評価される「ジャパン・プレミアム」を維持していくためには円安がいいのか、円高がいいのかも考えるべきです。通貨の状態は総合力の反映です。行き過ぎた円高は論外にしろ、通貨高という状況は欲しくても簡単に手に入るものではありません。ソフトパワー・ストラテジーに基づいた議論が必要です。 もちろん福島第一原子力発電所の事故をしっかりと検証することが日本の再建と信頼回復に必要なことは言うまでもありません。巨大リスクと隣り合わせに生きているなかで、リスクをタブー視したり安全神話によりかかったりすることがどれほど倒錯的で危険なことか、我々は学びました。だからこそ事故をしっかりと検証しなければならないのです。日本再建イニシアティブでは、福島原発事故独立検証委員会による半年間にわたる検証結果を2012年2月に発表し、英語の翻訳版もまもなく出版します。 ネットワークとコアリションについても考えていく必要があります。パワーの性格が変化し、GDPに象徴される経済力や軍事力といったハードパワーだけでは世界に対する説得力を持てない時代を迎えつつあります。日本が持つソフトパワーを世界に発信して巻き込み、日本の企業と一緒に事業を行いたいとの機運を作るためには、ネットワークとコアリションの発想が欠かせません。コアリション効果でパワーを何倍にも増すこともできます。しかし、そのようにするためには日本発のグローバルメディアが必要だし、英語での発信力も欠かせません。発信力を考えた場合、個人の持つ力がかつてに比べて計り知れないほど大きくなっていることも認識すべきです。フェイスブックは創業からわずか数年で10億人以上のコミュニティーを作った。これほど短期間で中国、インドに次ぐ巨大コミュニティーが作り上げられた例は世界史上の大事件といえます。 日本の優れたソフトパワーも魅力も、これまでは外国人に発見されるのを待つだけだった。ブルーノ・タウトに発見された桂離宮も、ドナルド・キーンによって世界に紹介された『細雪』もそうでした。しかしこれからは日本自身が個々の輝きを照らし出していく努力に必要になります。