トラベル懇話会 Travel Management Club
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新春講演会 抄録
2010年 新春講演会
 
 
2010年の海外旅行市場の行方
 対論 田川博己社長(JTB) × 平林朗社長(HIS)
 
 

トラベル懇話会が1月7日に開催した新春講演会で、旅行業界の両雄、JTBとエイチ・アイ・エス(HIS)の経営トップによる対論が行われた。そこからは、旅行業界に突きつけられている共通の問題点が浮き彫りになり、2010年以降の旅行ビジネスの展望が示された。司会進行は、対論の企画者でもあるダイヤモンド・ビッグ社「地球の歩き方」の西川敏晴取締役会長が努めた。

   「今のままでは駄目」が共通認識
田川博己氏 JTB 代表取締役
1948年生まれ、慶応義塾大学卒業後、71年に日本交通公社(現JTB)入社。2000年取締役、02年常務取締役、05年専門取締役営業企画本部長、06年専務取締役旅行事業本部長を経て、08年6月から現職。
司会 まず最初に、お二人は社長として旅行業界の現状をどのように捉えておいでですか。
田川 09年は出だしが良かったものの、全体として厳しい年でした。しかし、示唆の多い1年でもあり、新しいスキームの必要性をあらためて感じました。
したがって、構造改革を行い、スピードを上げて成長戦略を進めなければなりません。通常は改革してから成長戦略に着手しますが、当社は両方同時にやります。そうでなければ、社会や市場の動きについていけないと感じるからです。
構造改革の中心は、店舗の価値を見直し、効率経営を行うこと。 成長戦略はウェブビジネス、グローバル展開、地域密着の3つが柱となります。これを何としても実行しなければ、グループ従業員2万9000人が食べていけません。ただし一方で、我々が携わっているのは人で動く仕事ですから、人材の確保と育成は、改革や戦略と別次元で行う必要があります。
我々はDMC(デスティネーション・マネジメント・カンパニー)の考え方に基づき、発・受一体でビジネスを発展させ、「旅の力」とJTBのブランド力を使ってライフ   スタイル産業への進化を目指したいと考えています。

平林 2年前に社長に就任した私に期待されたのは、激変する市場に若い世代で対応し、新しいビジネスモデルを作り上げることだったと受け止めています。社長就任直後から、リーマンショック、燃油サーチャージの高騰、コミッションカト、新型インフルエンザ、円高とさまざまな出来事があり、今はまさに激変の時代です。
当社は10年に創業30年周年を迎えますが、こうした変化に合わせて、これまでのビジネスモデルをこの1~2年で大きく変えつつあります。そして、さらなる変化に対応するには、先回りして変化する必要があります。これを日々やっているところです。
10年には空港をめぐる状況が大きく変わります。秋(の羽田空港の拡張)には新規航空会社の就航も予定されています。日本航空の問題もあります。こうした状況のもと、中長期戦略はもちろん重要ですが、日々の変化への対応もまた重要となっています。

 
HISも店舗コストに重荷感
司 会 両社とも店舗を増やすことで事業を拡大してきましが、現在、店舗の役割が大きく変化しています。リアル店舗とウェブ戦略についてどのようにお考えですか。
田川 このところ、インターネット経由のビジネスは、この環境下でも毎年5~6%伸びて   います。さらに昨年は、高速道路1000円化によって伸びが加速しました。国内宿泊については完全にインターネット予約の時代に入ったといえます。
しかし、リアル店舗とインターネットの関係は単純ではありません。むしろ、クロスチャンネルの重要性を感じます。今のところ、インターネットは価格を引き下げることだけにベクトルが働き、付加価値型商品の販売には向きません。ならばリアル店舗は何を売るべきか。価値あるものを売るべきであり、それに合わせて店舗のあり方や売り方を抜本改革しなければなりません。これからの旅行には、インター   ネットで完結する商売と、インターネットを道具としてクロスチャンネルで展開す   る商売との2つの道筋が必要です。
平林朗氏 エイチ・アイエス代表取締役社長
1967年生まれ。佼成学園高校卒業後、93年にHIS入社。04年関東営業本部長、05年に関西営業本部長、07年取締役関西営業本部長を経て、同4月取締役情報システム本部長。08年4月から現職。
平林 HISでは、96年にホームページを開設して以降、リアル店舗とインターネットに均   等に注力し、並行して取れ組んできています。これは今も変わりありません。店舗の統廃合はあっても基本戦略は店舗拡大であり、同時にオンラインやモバイルにも力を入れています。ただし、それぞれの役割を明確化しすぎると社内で互いの遠慮や派閥が生まれるので、境目なく自由にやることを意識しています。
オンライン予約の将来性について、5~6年前には、シェアが取り扱い全体の1~2割りまでではないかと考えていましたが、ここ2~3年のモバイルを含むオンラインの成長を考えると半分まで拡大する可能性は十分あり、相当高いシェアを占める可能性を感じます。ただし、オンラインの顧客には海外旅行リピーターが多いことから、新規需要を掘り起こせるのはやはり店舗だとみています。付加価値型商品の販売にも店舗が重要です。
我々の目指す出店形態は極力コンパクトな店舗で、基本は空中店舗です。コストパフォーマンスを上げて価格で顧客に還元するというビジネスモデルで30年間やってきました。 しかし、今のままでは徐々にコストを支え切れなくなっているのも事実です。顧客1人に販売し利益を得るには、販売コスト以上の粗利がなければビジネスとして成立しません。しかし、競争原理が働くなかで実際にはそれ以下で売っている商品もあります。需要喚起につながっていない面もあり、葛藤があるのも事実です。
「安い商品」と「安売り」は別
司会 10年に海外旅行需要はのびると予想されますか。
田川 伸ばさなければいけない年でしょう。バンクーバー冬季五輪に始まり、上海万博、APEC(アジア太平洋経済協力会議)など今年はイベントも多く、ここで需要を創ってビジネスを伸ばせなければ経営者を辞めるくらいの覚悟で臨みます。
平林 確かに羽田や成田空港の発着容量拡大があり、新規乗り入れや既存航空会社のキャシティー拡大があるなかで、ここで増やせなければ未来はないとの思いはあります。

司会 旅行商品における安売りと価格戦略についての見解をお聞かせ下さい。
田川 製造業と異なる旅行商品の独特の難しさがあります。たとえば消費者にとって、航空座席は価格に関係なく同質の商品が手に入ります。質が同じなのに、これほど価格が乱高下する例はあまりありません。だからこそ、旅行会社が旅行商品として販売する場合には、質と価格をセットで考えるべきです。たとえば、スポットで安い価格を打ち出すにしても、赤字商品にはしないなどの歯止めが必要です。企業努力によって可能な範囲で価格を下げるのは当然としても、「安い商品」と「安売り」は別物との認識があるべきです。
平林 世の中はデフレ基調で価格志向は強まっています。しかし、価格を下げても総需要喚起につながるとは思えません。パイの奪い合い、身の削り合いになってしまっています。より付加価値ある商品、お客様の満足度が高い商品を作っていかねばなりません。
毎年恒例の「初夢フェアー」はお客様への感謝を込めて行っているものですが、今年は30周年で例年より力が入ったきらいがあるかもしれません。もちろん、この商品だけ売っていたら経営は成り立たない。我々にとっても主力商品でないことを業界にはご理解いただきたい。

司会 成熟した海外旅行市場では、商品はプロダクトアウトであるべきか、あるいはマーケットインであるべきなのか、どちらだとお考えですか。
田川 現状は、顧客目線を外してしまえば売れません。しかし、中長期的にはプロダクトアウトが大切です。JTBが分社化し地域密着型にしたのも、プロダクトアウトの商品を全国の販売網に乗せてお客様に届けるとの発想からです。もともと海外旅行はすべてプロダクトアウトでした。その事実が歴史の中にきっちりあり、顧客目線だけに迎合すべきではありません。
平林 クオリティーを上げ、需要喚起につなげていくには、顧客が望む以上の価値を提案する必要があります。したがって、新しいデスティネーシヨンの提案など、企業からのプロダクトアウトがより大切になってきます。

グローバル戦略強化は不可欠
司会 旅行会社が成長戦略を描くには非常に厳しい局面を迎えています。突破口となるのは、お二人ともグローバル戦略であると発言されていますね。
田川 JTBは世界約120拠点以上の営業ネットワークを持ち、世界最大のオペレーターであ   ると自負しています。現在もこれら拠点のある各地から日本を含む世界中へ旅行者を送り出しています。15年までには大枠を整え、軌道に乗せたいと考えています。
なかでも主ターゲットはアジアです。アジアをテコに世界を目指しますが、相手国への進出の際には慎重に事を構えなければ失敗します。合併なのか、共同経営、協業なのか、よくよく見極める。20~30年前に製造業が海外進出する際にそうだったように、現地の風習む・習慣・法律を尊重して、その土地にきめ細かく対応することが大切です。
国際的な交流人口は、15億人とも20億人ともいわれます。マーケットのある所で商売するのが、商いの基本です。
平林:09年には海外100拠点目をマニラに開設し、さらに拠点増設を図っています。日本   人旅行者を受け入れるだけでなく、いよいよ現地からの送客も取り組む時期と見ています。     
海外出張のたびにアジア大航海時代を実感します。次々と旅行会社が生まれ、おそらく何十万社もがひしめいている。参入障壁の低いビジネスとはいえ、大変な熱気を感じます。そのなかで成長戦略を描くのは自然なことで、各国の中でアウトバウンドを手掛けていく方針です。グローバル戦略チームは「シンク・グローバル、アウト・ローカル」をスローガンに取り組んでおり、その中でHISのベンチャースピリットを伝えられるかどうかが鍵となります。並大抵のことではありませんが、外へ出て行かない限り成長はありません。

司会 注目の中国市場について、どのように期待されていますか。
田川 日中の交流拡大がなければ、インバウンド2000万人もないのはわかり記っていることです。ビザ発給やイミグレーションなど基礎インフラの未整備はあるにしても、中国のアウトバウンド4000万人の内100万人しか日本に誘致できていないのは問題です。少なくとも400万~500万人はあるべきです。
平林 GDP成長率が2桁の地域がざらにある中国の熱気やパワーは計り知れません。中国が成長戦略のメインになるのは間違いないでしょう。